2018年度経済理論学会第66回大会

10月13日(土)、14日(日) 

立命館大学(びわこ・くさつキャンパス)

経済理論学会第66回大会の共通論題は、「転換する資本主義と政治経済学の射程ーリーマンショック10年」です。

   2018年は、2008年のいわゆる「リーマンショック」から10周年にあたります。このとき、1年間で23万人を超える非正規労働者が職を失ったことは記憶に新しいところです。さらに、その10年前の1998年は、前年から始まった景気後退によって日本経済が本格的なデフレ不況に突入した年です。それ以降、完全失業者が300万人を超え、自殺者も年間3万人台に乗せる極寒の時代が始まりました。どちらの不況期にも、大学卒業者の4割が職につけない状態となりました。世紀の変わり目前後数年の「就職氷河期」に社会に出た「ロストジェネレーション」と呼ばれる世代は、未だ多くの人々がいわゆる「フリーター」のまま年齢を重ねています。この20年は、豊かになったと言われた日本で貧困が再び蔓延し、たくさんの人々が命や家庭やまっとうな人生を奪われた暗黒の時代として歴史に刻まれることになるでしょう。

 

 このようなプレカリアート化や中流労働者の没落は、多かれ少なかれ世界の主要国に共通して見られる問題になっています。「リーマンショック」が起こった当時は、「小さな政府」を志向してきた新自由主義がその元凶として批判され、社会リベラル派的政策に重心が移ったかに見えていました。しかしながら、国際競争の圧力と、ギリシャ危機を契機とした緊縮志向の巻き返しによって、結局どの政権も貧困層の拡大という状況に対して、改善に手がつけられず、大衆から見放されて終わっています。代わって、ブレグジット(イギリスのEU離脱)現象や、トランプ・ルペン・オルバン現象に見られるように、程度の差こそあれ、グローバリズムに背を向けて、「大きな政府」による経済介入を志向する右派政策が支持を集めています。日本における民主党政権の崩壊と「安倍一強」現象がこの一環であることは言うまでもありません。その一方で、欧米では右派側だけではなく、左派側からも民衆主義的な反緊縮運動が起こっています。

 

 マルクス経済学をはじめとする批判的な政治経済学は、本学会のこの間の一連の共通論題に示されているように、それぞれの立場から、このような動きの背後にある資本主義の何らかの転換を探り、その解明に努めてきました。それは大きな成果をあげてきましたが、他方私たちはそこから、今日のこの状況を見通し、現代資本主義の犠牲となった大衆にとって光明となるオルタナティブな指針を提起することができてきたでしょうか。現在興っている上記の様々な運動の経済認識と政策は、批判的な政治経済学の諸潮流の中でどのように位置付けられ、評価されるべきものか、十分に議論されてきたでしょうか。

 

 この20年の間に、資本主義経済の危機の分析を自らの使命とするマルクス経済学に対して、社会の様々な分野で、その歴史的な再評価がされてきました。特に、本学会が関係六学会と共同して取り組んでいる7七学会合同企画「21世紀におけるマルクス」による、昨年のマルクス『資本論』第1巻発刊150周年の記念シンポジウム、今年のマルクス生誕200年記念シンポジウムは、このようなマルクス経済学を見直す試みを一層盛んにするものと期待されます。

 

 しかしながら今日、政治経済学への社会的な要請は、マルクス経済学の再評価に留まらず、現代経済の本質に迫る理論の発信と政策提言にも問題意識を向けるよう求めているように見えます。そこで本学会の創立60周年を翌年に控えた今回、「リーマンショック」10年、日本が本格的なデフレ不況に突入して20年という、様々な意味で節目の年にあたり、資本主義のこの20年で見られた転換について、そしてこれから起こる転換のいろいろな可能性について、本学会の総合学会としての強みを生かし、多様なパースペクティブから、困窮した民衆の希望につながる分析がなされることを期待して、この共通論題を掲げました。そのため、報告者は、理論的立場、現状分析の立場、さらに実践の現場の経験をお持ちの方などを広く候補として、政治経済学に対する評価と期待を語っていただこうと思います。どの報告者でも結構ですので、自薦、他薦問わず、積極的にご推薦をお寄せいただきますようお願いいたします。

 

  2018年度大会の共通論題は、「転換する資本主義と政治経済学の射程リーマンショック10年・デフレ20」としました。様々な意味で節目の年にあたり、資本主義のこの20年で見られた転換について、そしてこれから起こる転換のいろいろな可能性について、本学会の総合学会としての強みを生かし、多様なパースペクティブから、困窮した民衆の希望につながる分析がなされることを期待します。そのため、報告者は、理論的立場、現状分析の立場、さらに会員外から実践の現場の経験をお持ちの方を、という三つの方面の方々にお願いしたいと計画しています。そして、それぞれの立場から具体的な状況と提言を教示いただきながら、政治経済学に対する評価と期待を語っていただこうと思います。どの報告者でも結構ですので、自薦、他薦問わず、積極的にご推薦をお寄せいただきますようお願いいたします。

           

66回大会準備委員会委員長 松尾匡

  

 

経済理論学会第66回大会実行委員会 

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